せんせえ、美術モデルってなんですか?

ただ、脱いでいるわけではないのです。

「美術モデルとは」

「美術モデルやってます」なんていうと、第一声は「なにそれ?」と大方決まっている。とくに芸術が好きという方でなければ、一様にこの反応となる。8年間そんな感じだったのだから、たぶん間違いないと思う。
なので、今回は美術モデルとは何か、から紹介していきたい。読んで字のごとく、美術の制作に携わるモデルのことを指すのだが――たとえば、デッサン、クロッキー、絵画、彫刻などの芸術作品を制作するときに、ポーズをとる。一般的な写真のモデルとは違って、数分は決めたポーズで固定となる。作り手の意見を踏まえ、また自身が持ちこたえられるかどうかを考慮しつつ、ポーズと固定する時間を決める。
私の場合、軽めのクロッキーなら、1ポーズ1分~20分程度。デッサンや絵画なら20分くらい。彫刻は8分~10分。クロッキーの1分だと8ポーズくらいはノンストップ。デッサンや絵画、彫刻のように1ポーズに10分を超えてくると、5分ほど休憩して、また同じポーズをとる。立ったり座ったり、中腰もあるし、寝転ぶことも。場合によっては、特殊な道具を使って天井から手を釣ったり、シャチホコの形で固定したりと複雑になることもある。

「そのようすって? 水面に浮かぶ白鳥のよう」

先程から出てきている専門用語について、簡単に解説。デッサンとは、主に鉛筆、木炭で対象物を描くこと。だいたいは黒っぽい仕上がりになるけれど、人によっては色をつけるからそこはなんともいえない。また、クロッキーはデッサンよりももっと感覚的に対象物を捉えて描いている。デッサンは形の正確さを追求するけれど、クロッキーはそうでもない。短時間で質感を描き出すことを目的とする場合が多い。制作時間はデッサンのほうが長く、授業だと何週にも渡って描くこともある。デッサンに入る前、肩慣らしにクロッキーをする場合も。
授業やアトリエでおこなわれるデッサンやクロッキーは大人数でモデルを囲む。台が回転する八角のモデル台か、毛布の上かに立って、一定時間ポーズをとり、タイマーをセット。たとえば、20分ポーズ、5分休憩、また20分ポーズ、5分休憩。
私の場合、デッサンは描き手の絵の進行具合を窺いながら、形が取れてきた頃合で20分のポーズのあいだでも、腕や足を回したりして血液の流れは止まらないように気をつけている。当然のことながら、最初の20分は調子がいいけれど、2時間経ってからの20分は同じではない。ポーズによっては、身体がプルプルしてくることもある。過去に血液の流れを止めてしまうほどひねりのあるポーズを頑張りすぎて、額から変な汗を流して震えながらモデル台で立っていたことがある。
涼しい顔をして決めているポーズも、実は内心「早くタイマー鳴って!!」と頭の中はそれでいっぱい、なんてことも。

よくある質問を個人的に解説。

「『ヌード』と『裸』の違い――恥じらいはあるのか、について」

ここでひとつ申し上げておきたいのは、「服を脱ぐから、美術モデル」というわけではない、ということ。解釈はそれぞれあると思うが、現実に着衣でモデル台でポーズすることもあるのだから、美術モデルって裸でしょ、ではない。ただ、そういうふうに思われてしまう。なぜか。
西洋の美術作品――ギリシャ神話を題材にしているものの多くはヌードだし、彫刻は全世界を見ても衣服を纏わないことが大半だ。そういうことも手伝って、「裸=芸術」という印象は拭えるものでもないし、普段の生活では当然服を着ているのだから、それがモデル台の上で取っ払われて、多くの人の目に晒されるのは、やはり万人の理解を得られるものではないのかもしれない。
しかし。露出狂のように非難されるのは違うと思う。脱ぐことに関して、恥じらいはないのか、とよく訊かれる。そりゃ私だって、街中でスカートが捲れたり、胸元がはだければ恥ずかしいに決まっている。仕事のときは更衣室で着替えるし、休憩時間はバスローブなどを羽織って待機する。
限られた一角で自分の肉体を変化させて表現し、モデルを通して、自分を表現する人たちが芸術作品に起こしていく。誰かに何かを伝える、訴えかける波動を生み出すのだ。

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錦織小町@ささ脳

錦織小町@ささ脳美術モデル

投稿者プロフィール

表現者。1988(昭和63)年大阪府生まれ。近畿大学中退、大阪コミュニケーションアート専門学校卒業。三年間の会社員生活を経て、現在は執筆、美術モデルを主な活動としている。生きている意味、自分にできること、しなければいけないことは何かを問い続ける。

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